コーヒーを淹れるお湯の適温は、83度から96度だと言われている。 ハヤさんはコーヒー豆によって、88度か93度に分けているそうだ。 「さらに言えば、美味しく飲める温度は60度から70度なので、お客様にお出しするとき、70度以下にならないよう心掛けています。温度計で測っているわけじゃないですが、長年の経験で」 以前、私がハヤさんの珈琲店に客として通っていたとき、テーブルに置かれた熱いコーヒーに、すぐ手を伸ばすことはなかった。 「実は……、冷めてしまう前にひと口だけでも飲んでいだたきたいな、と思ってました。瑞樹さんが猫舌だと知るまでの話ですけれどね」 「そうだったの、気づかなかったわ」 「ちょうど良いと感じる温度は人それぞれですから。でも、あまりにも隔たりが大きいと誤解じゃ済まなくなります。僕が寸一だったときのことですが━━」 と、江戸から明治の時代、寸一として生きた「前世」の記憶を持つ、ハヤ