山から街に出てきたわたしには、かつて山という故郷がありました。 山にはわたしが家族と過ごした家があり、わたしが通った小学校があり、わたしが遊んだ田畑があり、わたしが泳いだ川がありました。 幼馴染と通った小学校は、お城の跡にありました。 幼馴染とはもう何十年も会っていません。 こんな歳になって、今さら会ったとしても、誰が誰だか分からないでしょう。 わたしが遊んだ田畑には道ができ、家が建ちました。 追いかけっこで走った道がどこだったのか、もうすっかり思い出せません。 故郷の家はほんの小さな建物でした。 わたしの部屋は弟と共同。 3畳きりのスペースに勉強机が2つと本棚が1つ、衣装棚が1つ。 それでもう部屋はほとんど一杯。 わたしと弟がまだ小さかった頃は、それらの家具を並べた残りの隙間に布団を1枚敷いて、2人並んで寝ていました。 わたしたちが少し大きくなった頃にはそこに2段ベッドを置いて、上下に分