樋口毅宏の小説を読んでいると困ることがある。 この人物は実在するのか、この出来事は現実にあったことなのかと、ついネットで検索したくなってしまうのだ。嘘みたいな本当と、本当のような嘘。虚実のはざまに引き込まれる快感がそこにはある。 そんな樋口毅宏が、プロレス小説集『太陽がいっぱい』を刊行した。第1話の扉には開高健のこんな言葉が引用されている。 「虚の中にこそ実があり、実の中にこそ虚がある。プロレスは大人が観る芸術だ」 そもそも虚実が交錯するプロレスを、虚実混淆の樋口節で描く。実名なのは力道山だけで、そのほかはアントニオ猪木、長州力、ラッシャー木村、前田日明、高田延彦、谷津義章など、往年のレスラーを「彷彿とさせる」人物たちが登場する。 1971年生まれの著者は、子供のころからプロレスを見てきたという。新日本プロレスと全日本プロレスの旗揚げが1972年。だから著者と同時代、すなわちゴールデンタイ