「この本が売れなかったら、もうダメですよ」 いい感じに落ち着いた雰囲気の神保町の老舗喫茶店で、杉江さんはそう言った。 杉江さんは本の雑誌社の営業マンだが、何年か前から編集にも携わっている。 高野秀行さんがアフリカにある国際的には未承認の国家・ソマリランドを訪ねて体験した出来事を描くノンフィクション「謎の独立国家ソマリランド」は杉江さんが担当編集した。 自分で作るだけあってノンフィクションの本もたくさん読んでいて、杉江さんが何かしら反応する本は読んでみるとたいがい面白い。 その杉江さんが会ってすぐに「伊野尾さん、角幡さんの『漂流』読みました?」と聞いてきた。 ちょうどそのとき読んでいたところだったのでそのことを伝えると、「あ、やっぱり?いやーこれすっごい本ですよ!」と高いテンションで言ってきて、そのあとに続いたのが冒頭の一言である。 これだけ時間と労力をかけて取材して、それも読み進めるうちに