誰にでも秘密はあります。たとえば、故郷などないような顔をしている酒場の人たちにも、きっと。おいしいごはんとお酒に緩んだ、その口元から溢れる、あなたの秘密を教えてくれませんか……。 昭和の香り漂うマンガ界の磁場「スナック紅」 飯田橋という街を、私は足早に歩きます。少しうつむいて、いつでも。東口は大きなビルと飲食店が建ち並んでいるけれど、そのどれもが私の居場所ではないという感じがするのです。 大きな歩幅でワンピースの裾はざばざばと、駅から離れるように歩いて行くと、私の視線は徐々に前を向いていきます。道行く人は減り、 やがて小さな飲食店が増えていきます。やけに広く、暗い路地へ曲がると、今夜もぽつんとスナック「紅」が光っています。 近所にマンガ雑誌の編集部があるスナック「紅」には、漫画家さんと、彼らの原稿を待つ編集者達の思い出が積もっています。数カ月前に訪れた時、クモの巣を見つけたので、よく見てみ