『折れた竜骨』は、魔法が存在する十二世紀末のヨーロッパを舞台にしたミステリです。 魔法とミステリの取り合わせに面食らう方もいらっしゃるかもしれませんが、幽霊や超能力など、現実にはあり得ない力を援用するミステリはけっこうあるのです。私はかつて、それら特殊な設定を用いたミステリを、心躍らせて読んだものでした。読者とのあいだに交す約束事さえしっかりしていれば、その約束事がたとえこの世のものでなかったとしても、ミステリは成立する。そこにミステリという知的遊戯の懐の深さを見たからです。 本作がどこかの誰かに、かつて私が覚えたような昂奮を与えてくれることを願ってやみません。 ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の