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2010年9月12日のブックマーク (4件)

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    その地には、元々、許という街があった。 河南郡、すなわち中華帝国の要たる中原に位置する許は、しかし人口は万に満たず、申し訳程度の城壁に囲まれただけの小さな街に過ぎなかった。 そんなありふれた小都市が、一躍、中華にその名を知られるようになったのは、先の洛陽の大乱以後のことである。 後漢の帝都は、建国以来、洛陽から動くことはなかったが、董卓、そして朝廷の高官たちが引き起こした先の大乱により、洛陽は炎上、そこに住んでいた多くの民が都から焼け出されることになった。 その数、数十万。董卓打倒に集った諸侯も、これだけの数の難民を領地に受け入れることは出来ず、また遠征軍を長期に渡って維持してきた彼らに、洛陽を再建するほどの財政的余裕があるはずもなかった。結果、諸侯は洛陽の難民を半ばうち捨てて帰国の途につかざるを得なかったのである。 住むところを失い、べる物もなく、明日を生きる術を見つけることも出来ない

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    時は、後漢王朝末期。 王朝はすでに建国時の力と理念を失い、ただ惰性によって、歴史を引き摺るだけの存在と化していた。 悪化する治安。跳梁する賊徒。 官界には賄賂が横行し、官吏はその腐敗を恥じず。 罪無き民の怨嗟は、大陸を覆い尽くそうとしていた。 そして、皇帝が、自らの娯楽の為に、国家の要職さえ金銭で購わせるに至って、後漢王朝は中華の民を統べるに必要な信義を自ら手放すこととなる。 治、極まれば乱に至り、乱、極まれば治に至る。 ここに、光武帝劉秀によってもたらされた治世は完全にその輝きを失い、時代は乱へとなだれ込んでいく。 それは、力なきことが、罪悪とされる時代。無能が、悪徳とされる世の中。 朝廷は続発する反乱に目と耳を塞ぎ、群がり起こる賊軍は、ためらうことなく民衆を踏みにじる。 いつの世も、最初に犠牲になるのは、力なき民衆である。それは、人の業が定めた哀しい哲理。 されど、絶望に沈むことはない

  • 聖将記 ~戦極姫~  【第一部 完結】 【その他 戦極姫短編集】

    戦国時代。そう呼ばれる時代がある。 古くは、古代中華帝国において、大国晋が、韓、魏、趙の三国に分裂してより、秦帝国が中華統一を果たすまでの期間――いわゆる春秋戦国時代、その後半を指す言葉であった。 秦による統一によって戦国の時代は終わりを告げる。それ以後、中華帝国は幾たびも戦乱の雲に覆われることになるが、戦国という言葉が現れることはなかった。 それは、一つの時代を象徴する言語として、歴史に刻まれることとなったのである。 その春秋戦国の世より幾星霜。 歴史に刻まれ、過去を表す言語となった戦国の名は、中華帝国ではなく、その東に浮かぶとある島国にて、再び歴史に現出する。 応仁の大乱に端を発し、明応の政変にて顕在化した、日未曾有の激動の時代。後に戦国時代と呼ばれることになる、乱世を指す言葉として。 応仁の大乱、そして明応の政変を語れば、どれだけの言葉を費やすことになるか知れない。 言えることは、

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    時は春。満開の桜が視界一杯にあでやかに広がり、吹く風は確かな春の温かさを宿して、優しく頬を撫でていく。 家族に連れられてやってきたのだろう。幼い男の子が、浮かれた様子で桜の園のあちらへ、こちらへと走り回っていた。 陽が中天に輝く時刻、周囲には花見客が笑いさざめき、その楽しげな雰囲気が子供心を浮き立たせずにはおかないようで、遠くからかかる母親の声も、男の子の足を止めることは出来なかった。 さらに先へと駆け出していく子供は、しかし不意に停止を余儀なくされる。 桜の花を見上げていた青年にぶつかってしまったのだ。 小さな悲鳴と共に子供は足を止めた。思いのほか強い衝撃で鼻を打ち、その目にみるみる滴が溜まる。 それは鼻の痛みのせいもあったが、怒られる、と能的に恐れたためでもあった。 だが。 「おっと、ごめんごめん。大丈夫かい?」 青年は子供に気付くと、膝をついて目線を合わせ、そっと髪の毛に触れてきた