せせらぎの音をたどってようやく小川を見つけた俺は、わき目もふらずに川辺に駆け寄った。 手で水をすくう手間を惜しみ、そのまま川面に口をつけて音をたてて水を飲み込んでいく。 消毒もせずに川の水を飲む危険性は承知していたが、正直、そんなことを気にしている余裕は一ミリたりとも残っていなかった。 なにせこの小川にたどり着くまで、ずっと鍬(くわ)やら鋤(すき)やらを持った人たちに追い回されており、死ぬほど喉が渇いていたのである。 ようやく渇きから解放された俺は、川面から口を離して安堵の息を吐いた。ついでにため息も吐いておきたい気分だった。 両親の墓参りの帰り、気まぐれに春日山城址に足を向けてから今日で三日あまり。巻き込まれた事態の異常性を思えば、ため息の一つや二つ吐きたくなっても仕方ない、と思う。 「まったくなあ……ここはどこ、わたしはだれ、とか本気でいう日が来るとは思わなかった」 しみじみと呟く。