特別展示 家畜 ―愛で、育て、屠る― 「魅せる命」 展示監督 遠藤秀紀(本館教授/比較形態学・遺体科学) 動物学者の私は、究明のメスを動物の死体に向けてきた。動物の形や中身を眺めるのが、私の仕事なのである。魅せられる相手は、ときに家畜だ。謎の多い深山山奥の希少種の類が科学的研究対象としては主役に躍り出て、人家の側にいる家畜が注目を浴びないのは、まさにその通りである。が、私の場合は、一見どこにでも暮らしていそうな家畜に視線を投じつつ、思索を続けている。 家畜は人が創り出した命である。家畜の存在には、人間との間柄が横たわっている。人間から家畜単体を切り離したら意味が無くなるほどに、その間柄は重い。ただの鳥、ただの獣を研究するときとまったく違う探究のセンスが、そこに要求される。 特別展示「家畜 ―愛で、育て、屠る―」は、家畜とそれを創った人間との間柄に向けられる「私の目」を床に広げたものである。