1 科学における偶有性と規範性をめぐって ― 科学を批判するとはどういうことか ― 国際基督教大学大学院比較文化研究科 平川秀幸 (ID: 989042) 1. 科学をめぐる偶有性と規範性の矛盾 本稿は,博士候補資格試験論文の第三論文として,前二論文ならびにその後の既発表論文のい くつか(平川 1998a, 1998c, 1999a)を書くなかで浮かび上がってきた科学論上の問題に焦点をあて る。それは,博士論文において中心的な問題になるものだが,ここではその解答を目指すという よりは,それを考察するために必要な問題の整理を意図している。 それではその問題とはなにか。それは,フェミニスト科学史家のダナ・ハラウェイが次のよう に主張する「科学のラジカルな偶有性(contingency)の暴露と世界に関する規範的判断・関与と いう,一見矛盾する二つの課題をいかに同時に行うか」という科学批判の実践