マスクをしている人にもだいぶ見慣れてきた。今やもう、マスクをしていない人と向かいあうのに身体的な抵抗感が生まれるという話も聞く。マスクの価格は一度大幅に高騰したのち、元の安さまでは戻りきらないところで安定してしまった。わたしが「うなずく人カフェ」という企画をやったのは昨年の夏で、まだ五十枚入り数百円でマスクが買えたころのことだった。 「うなずく人」というのは、文字通り、話を聞いて、ただうなずく人のことだ。しょぼい喫茶店にはおしゃべりをしにくる人が多い。中でも、ふっと自分のことを語りだす人がいると、わたしはついつい気を引かれてしまう。話す内容は、相談事だったり打ち明け話だったり最近あった印象的なことの話だったり、「必ずしも今話さなくてもいいけれども、かといっていつでも誰にでも話すわけでもないこと」というような距離感の話が多く、それがまたいい。その話が、知らない人も同席しているこの空間でいま、