浅田次郎が選んだ、ぜんぶ「あたり」のアンソロジー。心がへこたれたとき、一編二編と読んで蓄熱したい。 リアルが辛いときには、そこから少し離れてみる。わが身をもって得たコツだが、これがなかなか難しい。ともすると濁った感情やぐるぐる思考にロックインされ、「そこ」から離れることすら思い至らない。そんなとき効くのが短編、しかも極上のやつ。 なにしろ、森鴎外や井上靖、谷崎潤一郎といった達人ばかりなので、一行目から引き込まれる。一頁目に入れたら、あとは安心して委ねていけるクオリティ。リアルを(ちょっとだけ)逸脱できる。しかも、いわゆる文学ブンガクを目指しているのではなく、浅田次郎が「心に深く残った作品」としてエンタメ性の高いものを挙げているので、肩肘張らずに読める。 知ってたつもりの作家に、こんな珠があったとは……驚くことしきり。もちろんわたしの不勉強なのだが、嬉しい再発見が得られる。川端康成の『死体紹
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