ユーロビートに合わせてミラーボールが踊る。 1984年のディスコにタイムスリップする。 胸の高さまでしかない壁で仕切られた1畳半の空間。ここでは踊れない。 「9番さん、十分前です」競り師のような言い回しが耳に入る。 箱に詰められたマグロが並ぶ魚市場にいる。視界に映るのは壁に囲まれた天井だけで、ふと自分がマグロなのだと気づく。 「初めまして。」化繊のブラウスとチェックのスカートを履いた女の子が立っている。 僕はピンサロにいる。 ソープランドに一度だけ行ったことがある。待合室で肩をすぼめた年配者に囲まれていると病院にいるような心持がした。それに比べてピンサロに来る人は様々だ。いかつい革ジャンに片耳ピアスのお兄さん。隙のない髪形をしたサラリーマン。もちろん影の薄いおじさんも。彼らが隣の箱の中で下半身だけ服を脱いで体育座りをしていると思うと、そしてドアを一枚隔てれば代わり映えの無い日常が続いている