西 孝 (杏林大学総合政策学部 教授) 2021.10.11 現実の経済が不可避的に定常状態に行き着くという「陰鬱な」結論は,これまでの経済学において何度が主張されてきた。つまりそれは,経済成長の限界・終焉を予言するものである。おそらくそのもっとも初期のものは,19世紀前半のいわゆる古典派経済学の時代であろう。 そこでは,労働者は生存が許容されるギリギリの最低賃金に縛られ,加えて資本家の利潤率もゼロとなってしまうと主張された。このとき問題となった経済成長の制約要因とは,人口増加と食糧生産における収穫逓減である。有名なマルサスの人口法則のもとでの賃金鉄則により,生存賃金を上回る賃金のもとでは,栄養状態の改善などを通じて成人・幼児の死亡率が低下し,人口が増加する。しかし食糧の生産性は,肥沃な土地が次第に減少することから逓減し,人口増加に歩調を合わせて増加することはできない。やがて食糧は不足し,