映画的知名度の低かったギリシャで“奇妙な波”と呼ばれた映画ムーブメントを牽引し、2015年の『ロブスター』で英語圏にも進出、いまや世界的映画監督となったヨルゴス・ランティモス。独特の奇妙にねじくれた世界観で映画ファンを幻惑し、かつ魅了してきた異才である。 ランティモスの作風にはいくつもの際立った特徴があるが、一貫して感じるのは人間に対する懐疑的な視線である。もっと平たくいえば、彼の映画からは「人間とは幼稚な生き物である」という、いささか極端でミもフタもない人生哲学が感じられるのだ。 ランティモス作品の登場人物たちはたいてい、閉鎖的な環境にとらわれて、精神的な成長を押し止められている。『籠の中の乙女』(2009年)の子供たちは外の世界は危険だからと自宅の中だけで育てされ、『ロブスター』(2015年)の大人たちは子孫を残すことを強いられ、伴侶を見つけられなければ動物に変えられる施設に入れられる