異文化受容、多文化共生を! と叫ばれて久しいが、むしろ世界は、というか世間・生活空間・ネット領域では、そういった意識高い系文化フレグランスへの反発に由来する、アンチ異文化ムーヴが激しさを増している。在日ドイツ人たる私も、実際、ふたつの文化の懸け橋という以上に両文化の板挟みに遭って双方を呪う展開が多い。おお、我は求め訴えたり! そんな私が選ぶ「闇黒ぶりが活力となる!」異文化遭遇本、まずはフィリップ・K・ディックの『高い城の男』だ。ナチスドイツが世界制覇に王手をかけ、友邦たる日本に核攻撃を仕掛ける5分前の世界を描くという時点でもうすでにネガティブ極まりないが、本書のキモは「ナチス」の政治的狂気以上に、「ドイツ」の文化的狂気に踏み込んでしまった点だ。ヨーロッパの伝統哲学的な理性が人間のスペックを超えてなお人間を支配することで生じるヤバみ。