南部陽一郎先生を悼む 独創的なアイデアと長期的な展望で素粒子物理学の流れを変えた師 大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長 シカゴ大学名誉教授でノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎先生が、7月5日にお亡くなりになりました。94歳でした。南部先生は、対称性の自発的破れの理論、強い相互作用のカラー自由度とゲージ理論による記述の提案、弦理論の提唱など、現代の理論物理学の基礎となる偉大な業績をあげられました。 2008年度のノーベル物理学賞の授賞対象となった「対称性の自発的破れ」とは、自然界が基本法則のレベルでは対称性を持っていても、現実の世界ではそれが隠されている場合があるという考え方です。この研究の発端は、物性物理学における超伝導の現象を説明するために、ジョン・バーディーン、レオン・クーパーとロバート・シュリーファーの3氏が考案した