(河出書房新社・2970円) 「翻訳」仕掛け、言葉の虚構、幾重にも じつに刺激的で痛快なチェコ小説が翻訳された。失われた日本近代文学を探すミステリであり、ラブコメであり、分身小説であり、入れ子状の「虚構内虚構小説」であり、翻訳小説でもある。翻訳小説とは、邦訳された小説という意味ではない。翻訳作業そのものを描く小説であり、その訳文が小説の一部を組成する小説であり、翻訳を通して何度も生まれなおす小説という意味だ。 主人公は、プラハの大学で日本文学を専攻する「ヤナ・クプコヴァー」という日本フリークの女子学生と、シブヤの街に幽霊として閉じこめられてしまうもう一人のヤナ。十七歳で日本に遊びにきた際、日本を思うあまり、二人に分裂してしまったのだ。プラハに戻ったヤナはそれを知らない。