フィギュアスケートという競技を初めて見たのは、1972年の2月に札幌で開催された冬季オリンピックのテレビ中継だったと記憶している。 瀬戸内海沿岸の田舎町に住んでいた僕にとっては、フィギュアスケートだけでなく、スピードスケートも、ジャンプも、ボブスレーも、バイアスロンも、自分の生きている世界からはとても遠いところにあるスポーツだった。雪と氷の上が舞台、画面に映し出される光景がやたらと白かったことと、みんなが毛糸の帽子をかぶり、分厚い手袋をしていたことが印象に残っている。なにせ僕の田舎ではまだ冬でも小学生は半ズボンで過ごしていた時代だったのだ。 札幌五輪のフィギュアスケートでは、ジャネット・リンという米国の美しい女性スケーターが話題を独占した。 彼女はフリープログラムの演技中に一度尻もちをついてしまったが、最後まで微笑みを絶やすことなく滑り続け、その愛くるしい姿は日本中を、あるいは世界中を魅了