村上春樹が新刊の『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)で、芥川賞について厳しいことを書いている。「新人レベル」の作家の書いたもので「真に刮目(かつもく)すべき作品」は「五年に一度」、甘めに見ても「二、三年に一度」程度。ところが芥川賞は年に2回もあるのだから「どうしても水増し気味」になると。みんなきっとそう思っているのだろうが言わないことになっている。芥川賞でこうなのだから、新人賞ともなれば受賞作を出した言い訳のような選評もある。それでも「これで世の中に出しては気の毒」というレベルでない限り、受賞作はないよりはあったほうがいい。 今月は新人賞の月。 新潮新人賞は高橋有機子「恐竜たちは夏に祈る」。いまはやりの素材である介護といじめとセックスと理由のない悪意を書いたものだ。物語は、高校生の緋鞠(ひまり)が夏休みに、元娘だった(血のつながらない)衿子(えりこ)に介護されている父方の祖父