youkoseki.com 夜の街 日没の時間、アラートが街に響く。夜のはじまりだ。みんなが一斉に退社しはじめる。 システム管理をしている私は、なんだかんだといつも退社が最後になる。 「早く帰れよ」と上司の岩田さんがそう言ってエレベーターに消えると、フロアには一人となった。 オフィスの戸締りをしていると、大沼さんがトイレから現れる。面倒見のいい一年先輩だが、くたびれた風貌のせいかだいぶ年上に見える。 「今日、飲みに行く?」大沼さんは言う。私は端末のカレンダーを見る。金曜日だが、月末ではない。 「自粛日ですよ」私は言う。 「つまらないこと言うなよ」大沼さんは答える。「いいところに連れて行ってやるからさ」 「これはどうします?」私は自分の端末を指差す。 「これがある」そう言って大沼さんが取り出したのは小さなドライバーで、止める間もなく私の端末を手に取ると、あっという間にカバーを外し、バッテリー