昭和40年代前半の早稲田は劇団花ざかりで、サルトル、ベケット、安部公房が人気の的だった。みんなエストラゴンやS・カルマ氏を演じたがっていた。ぼくは早稲田の学生としては完全なアウトローだったので、早稲田で流行するものには一応は警戒するのだが、どこかで気になって階段の途中で明かりが少ないなあと感じながら、そっと手にとってみるという具合だった。 安部公房については最初から気になって、『壁―S・カルマ氏の犯罪』を、『闖入者』を、『第四間氷期』を、リルケ(46夜)とハイデガー(916夜)が体を寄せ合ったような『無名詩集』を、そしてちょうど発売されたばかりの真ッ赤な函入りの『砂の女』を読んだ。たいそう高揚して読んだ記憶があるものの、おそらくそのときは安部公房の手法に興奮しすぎて、ろくな読み方をしなかったのではないかと憶う。 砂というものの定義をする。風化とは何かを考える。昆虫採集家の心理を読む。「村」
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