隣り合った女の左肘と私の右肘がぶつかり、その度に互いに顔を見合わせた。左利きと右利きが隣り合ったのだから仕方がない。そんなこんなで太田英子と親しくなった。バイト先で知り合った上和田義彦君のライブに出向き、その後に催された打ち上げにのこのこと出かけた際のことである。 二十世紀のお終い近く、ふり返るにその秋は珍しく仕合わせであった。私が仕合わせだった時期などほとんどないのだから、貴重なそれである。TBSで「青い鳥」をやっていた秋である。霧に包まれた京都競馬場でエリモダンディーが京阪杯を勝った秋である。暮れには西早稲田のACTミニシアターでボリス・バルネット特集があり、中野武蔵野ホールでは黒沢清の「蛇の道」がひっそりと上映された。 そんな季節、私は太田英子と蜜月であった。 太田英子は悪い冗談のような話を始め、次第にずるずると鼻水をすするようになった。「ほら」といってシャツから肌を露出すると、そこ