日本に生まれ育った人であれば、身内のことをよく言うことに心理的抵抗を覚えるのがふつうだろう。まったくよくできたすばらしい配偶者であると内心思っていても、「うちの愚妻が……」などと言うのが常識的言葉遣いである。本人がその場にいた場合、あとで謝っている人もいるかもしれないが。奥さんのほうが夫の友人などに「うちの愚夫がいつもお世話になっております」などと言うことは不公平にもあまりないと思われるが、最近はひょっとするとそのように謙遜する奥方も増えているのかもしれない。 身内を貶めることで謙譲の意を表す言葉の中で、世間でいちばん使用頻度が高いのは、やはり「愚妻」だろうと思う。次は「愚弟」「愚妹」「愚息」だろうか。兄なら「愚兄」ってのはあんまり違和感がないが、「愚姉(ぐし)」って言葉は辞書にも載っている歴とした日本語であるにもかかわらず、話し言葉で使われているのを聞いたことがない。不思議だ。よく官能小