夏の42.195キロを走ってきたとは思えない。観衆に手を振る勝者は、日本で力を付けたワンジルだった。トラックに正座するようにして十字を切り、手のひらを合わせた。「すごいこと。国に帰り大統領に会うことになった」。流ちょうな日本語が上ずる。長距離王国ケニアにとって、マラソンでは男女を通じて初の五輪金メダルだった。 最初の5キロが15分を切った。速い流れの中で暑さを気にしないアフリカ勢が揺さぶり合い、集団は小さくなっていく。「僕はスプリント力がない。だから長いスパートをかけた」と36キロすぎに3人の中から抜け出した。2時間6分32秒。わずか3度目のマラソンで五輪新を出した。スパートの1キロ前で給水に失敗。エチオピアのメルガがボトルを手渡してくれた。昨年12月の福岡国際を制した時の2位が、このライバル。「福岡で友達になった。あそこで水を飲んでいなければ、きつかった」と感謝した。 15歳で来日。