東日本大震災で被災した宮城県石巻市北上町の吉浜地区。シンボル的な存在だった熊野神社の大イチョウが、秋の深まりとともに真っ黄色に染まっている。神社周辺の民家は取り壊され、跡地は雑草が覆う。 58世帯171人が暮らしていた同地区では、大震災による津波で27人が犠牲になった。地区の大部分が、自宅の新築や改築に制限のある災害危険区域に指定された。住民は生活に便利な地区外に次々と移転。今ではわずか7世帯13人に減り、自治会は存続できないと、昨年11月に解散した。 元自治会長の佐藤良正さん(68)は、全壊した自宅を災害危険区域に指定される前に改修して、住み続ける。「地区が完全にばらばらになった。子供もいない、とっくに限界集落だ。活気を取り戻す手立ては何もない」 11日は震災月命日。佐藤さんは、「昔の吉浜で残っているのはイチョウだけだね。毎年きれいに色づき、勇気をもらう」と話した。(福留庸友)