東日本に人が住めなくなるとまで予測された福島第一原発の事故。メルトダウンや水素爆発が相次ぎ、そこはまさに死と隣り合わせの現場だった。原発の暴走を食い止められたのは、死を恐れず立ち向かった人たちがいたからだ。日本を救った彼らは、あの時、何を思い、どう行動したのか。災害やウイルスの脅威などの危機が相次ぐ今、“あの日、現場にいた人”たちだけが語れることがある。 記者は数十回にわたり、その人の元を訪ねた。「あの時のことを、何があったのか教えてください」と頭を下げた。屈強な体格のその人は言葉少なに取材を断り続けた。ただ、何度もやってくる記者を不憫に思ったのか、「少しだけなら…」と時間を割いてくれた。その人とは、福島第一原発の地元企業・栃本重機の栃本良重(敬称略)。 「俺だけが特別じゃない、みんなが相当の覚悟で現場にいたことは伝えてくれ」 そう言って、栃本はあの日のことを語ってくれた。