私は二人の死刑囚と親しくつきあった。 まず正田昭(しょうだあきら)がいる。1956年4月、私が東京拘置所の医務部に医官として勤めた時に出会った。 彼は慶應義塾大学出身で、有名人であった。京都で逮捕された時に大勢の新聞記者を前に「大学では殺人を犯罪だという教育を受けなかった」とうそぶいたからである。しかし私が会ったときには、カンドウ神父の導きで洗礼を受け、人が変わり、柔和な人物になっていた。物静かで礼儀正しい。1929年生まれ、つまり私と同年の青年であった。 東京大学医学部を卒業して精神医学教室に入った私は殺人犯の犯罪心理学に興味をいだき、東京拘置所の法務技官となって死刑囚の研究を始めた。死刑囚には拘禁ノイローゼになる人が多く、この研究に対して矯正局は協力してくれたため、数多くの死刑囚を訪問し対話し記述することができた。そういう環境のなかで、正田昭は死刑囚の心理を探る得難い人物であった。 1