暗く長いトンネルの旅を〝聖人のお腹〟を通り抜ける陶酔と感じる「わたし」の 微妙な身体感覚を詩的メタファーを秘めた文体で描く表題作ほか二篇を収録。 言葉でてきていないものが、この世にあるのか 初めて小説の依頼をもらったとき、当然のことながら小説を書くということがどういうことなのかわからなかった。それで『ゴットハルト鉄道』を書き写してみた。自分にとって特別なこの小説の中で起きていること、言葉とその質量の連続を、身体的に味わってみたかったのである。 それはおそらく『ゴットハルト鉄道』の主人公が、ゴットハルトを貫くトンネルに対して抱くものを共有するかのような体験だった。他人が書いたものとはいえ母語で書かれた文章を書き写しているだけなのに、そこには通常の読書体験とは異なる、いくつもの「翻訳作業」があった。それは回転して暗闇を進んでいく列車のように行き戻りし、物語とも詩とも記憶とも記録とも時間ともつか
![私の一冊 - 川上 未映子|講談社文芸文庫|講談社BOOK倶楽部](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/80b39707d40355c80caf67fd7f8c96479cec479f/height=288;version=1;width=512/http%3A%2F%2Fbungei-bunko.kodansha.co.jp%2Ftemplates%2Fimg%2Fcommon%2Fog_image.png)