音楽が、孤独な人間の味方であり、夢であった時代があった。 夕暮れの強い西日の差し込む自室に、浅く埃のかぶった黒く大きなラジカセが奏でる音が、受験勉強に勤しむ青年の心の支えであったり、本を読み空想の世界を旅する少女に寄り添えていた時代があった。 彼もその時代の人間の一人であり、やがて自分でも音楽を作ってみたいと夢見るようになった。しかし多くの人がそうであるように、音楽の始め方も作り方も自分には何やら縁遠く、途方もなく、到底できることではない、と感じているのであった。 ある真夏の暑い高校の体育館でのことだ。こちらに転がってくるバスケットボールを待ちながら、彼はふとこう考えた。「一生」をかければどうだろうか?と。 一生をかければ、自分のような凡人にも、人を感動させられる曲を作れることがあり得るのではないだろうか?と。頭の中ではSyzygyのCan I Dream ?という曲が流れていた。 16歳