夕方になって所長が 「雨が降るぞ」 と言ってやってきて、私は最初「降ってきたぞ」と言っているのかと思い、それなら外に出したものを大急ぎで中に入れなければならないから、私は走った。しかし、多少なら濡れてもいいやとも思っていたから、いい加減に走った。どちらにせよ、走らなければ所長の心象が悪くなるから、私は「ほんとうですか?」なんて、芝居がかった声を出しながら。この前雨が降っていたときに、所長に教えられたときは、確かに所長が教えてくれなければ濡れたから、私はあとから礼を言おうと思った。しかし、近くに先輩がいたから黙っていた。所長は部署の人たちに嫌われているから、私がお礼なんか言ったら変な人と思われてしまう。人は、誰かを嫌いになったら多数の人が嫌っていると思いがちだし、できればそうなってほしいと願う。私はしかし、前ほど所長のことは嫌いでなくなってきた。 私が外に出てみると、雨はまだ降っていなかった