■ファイルIII 心やさし(2) 日常の会話をかわすことすらほとんどできなくなった80代の女性が、パロを手渡される。そのとたんに顔色が変わった。車いすから背を起こし、そっと抱きしめる。 「クウー」 パロが反応し、もぞもぞして小さく鳴いた。女性の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。 「動いてる、お話ししてる…。うれしい…涙が出るほどうれしいの、あー」 茨城県の筑波山のふもとにある介護老人保健施設では、アザラシ型のロボット「パロ」を使った「ロボット・セラピー」を介護に取り入れている。 ロボットが腕の中で動いたとき、女性は何を思って感極まったのだろう。以前、飼っていたペットのことか。子育ての思い出か。あるいは先立った夫のぬくもりだったのか。それは彼女にしか分からない。 「パロは人の感性を刺激し、過去の記憶や経験を呼び起こす。その人の主観的な価値を生み出す心の世界のロボットなのです」