次の一文には「マジック・リアリズム」が潜んでいる。 カーテンを開けた。夏もたけなわの八月、窓の向こうには、燃え立つ月世界のような土地が島の反対側まで広がっているのが見え、太陽は空で動きを止めていた。 『20世紀ラテンアメリカ短篇選』にあるガルシア=マルケス「フォルベス先生の幸福な夏」からの一文だ。あまりにも何気ないので、読み流してしまうかもしれない。 ここは、主人公が薄暗い浴室で弟とシャワーを浴びるシーンだ。薄気味悪い話をしていたので、カーテンを開けることで、視覚ばかりか気持ちも明るくなったことが分かる。 ここから重要。これ見ているのは主人公(兄)であるにもかかわらず、避暑地になっているくらいの大きな島(パンテレッリア島)の反対側まで一望できるはずがない。 ところが、さっと開けた窓ごしに島の反対側まで広がっているのが見えるのは、窓の外へ「見」ている存在が漂い出て、そのまま上昇し、俯瞰してい