批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く 北村紗衣著 ちくま新書 2021年9月出版 902円 Text by 西村紗知 (Sachi Nishimura) この頃自分がなにを書いているのかわからないと思うことが増えた。もっと言えば、なにを書いているのかはわかるけれども、この文章のことを総体として捉えたとき、文章が生み出されたあとのことも考えたりすると、結局自分がなにをしたことになるのかよくわからない、と思うことが多くなった。 本当に、書いているだけだ。もちろん読者がいないと成立しないことくらいはわかっている。批評対象の側の人々と交流したい気持ちがない。批評家同士ともできれば星の友情がいい。そうしたわけで、自分の文章から社交の契機がますます感じられなくなっている。 書くペースも明らかに遅くなった。今まさに書いているこの文章もすでにだいぶ締切が過ぎているのであるし、書き始める踏ん