映画「この世界の片隅に」の舞台になった広島県呉市と広島市。作家・高橋源一郎さんが、主人公と原爆投下直前の母親の体験を重ねながら歩きました。寄稿を掲載します。 ◇ 昭和20年(1945年)7月1日付の「(全国)時刻表」は、B3用紙ほどで裏表1枚しかない。 その、敗戦前最後の時刻表に、京都発21時30分の便が記載されている。この列車は、京都を出発した後、明石・姫路間で午前0時を迎える。夜明け前の4時31分に尾道を出発、終点の広島に到着するのは朝7時58分。それが8月6日だとしたら、原爆投下の17分前に着いていたことになる。爆心地に近かった広島駅は大きな被害を受けた。だとするなら、その列車の乗客はどうなったのだろう。 当時は、時刻表通りの運行は困難で、大半の列車は遅延していただろうといわれている。もしかしたら、その列車は、どこか途中の駅で足止めを食っていたのかもしれない。だが、少なくとも、その列
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