俳優・松方弘樹が、実父であり、1970年代初頭まで時代劇で活躍した俳優、近衛十四郎について語った。映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる連載『役者は言葉でてきている』からお届けする。 * * * 松方弘樹の父・近衛十四郎は熱心な時代劇ファンたちから「日本一のチャンバラ役者」と現在もなお讃えられ続けている。若手時代、松方は『柳生武芸帳』シリーズなどの近衛主演の東映時代劇で数多く共演してきた。 「父親は立ち回りは一回で覚えるんですよ。僕が十回も二十回もやっている間、『ワシは疲れるから、やらんぞ』と椅子に座っているだけでね。 それで本テス(本番前最後のテスト)になると、『一、二、三、四手は早く行くぞ。四手と五手目で間を入れるぞ。六、七、八、九、十、十一、十二は早いぞ。十二と十三は間があるぞ』って言いながら二十手ぐらいの手を一回で覚えるんですよね。僕も覚えるのは早い方ですが、何で覚えられるのって