文/橋本治(作家) 浦島太郎の真実 『群像』誌から『御伽草子』の特集をするので、『御伽草子』にインスパイアされた作品をなにか書いてほしいと言われた。 『御伽草子』に想を得たものは、太宰治作で有名な『お伽草紙』をはじめとしていくつもある(だろう)。ただまァ私としては、『御伽草子』を題材にして現代を諷刺するような作品を書いてもおもしろくなかろうと思っていて、今もまだ思っている。 そう思うのは、室町時代から江戸時代の初めにかけて出来上がった『御伽草子』自体が、「こんな話の進め方がよくも平気で出来るよなァ」と思われるメチャクチャさに満ちているからだ。 たとえば、「浦島太郎」に乙姫様は出て来ない。浦島太郎が玉手箱を開けても、ジーさんにはならない。 浦島太郎に釣り上げられ、獲物にもならないと思われて海へ返された亀が、恩返しのため――というか、浦島太郎に惚れてしまった結果、美女に化けて浦島太郎のところへ