グッドマンの記号主義 本書〔菅野盾樹『恣意性の神話』〕で筆者は機会あるごとにグッドマン(1906-1998)の業績に言及してきた。特に第七章で藝術を記号機能の面から考察するにあたり、文中でも言明したように、理論枠組の一つの重要な柱として、グッドマンの記号理論を採り上げた。この豊穣な可能性を秘めた記号理論を、彼はほとんど独力で作り上げた。しかし、残念なことに、我が国ではグッドマンに関する十分な紹介がなされてはいないし、また彼に関する研究の蓄積もほとんど無きにひとしい。翻訳された著作は現時点では二冊にすぎず[エルギンとの共著『記号主義』を含め現時点では三冊]、主著の翻訳はいまだに陽の目を見ないでいる。 グッドマン哲学の全体像は、一般読者の前にはまだ姿を現していない。部分的にさえ、彼の哲学に関する一般的な理解はきわめて貧弱である、というのが偽らざる実状であろう。そこで、グッドマンに関する読者