これは俺が貧乏人だった頃の話なんですがね。 今でも貧乏なのは変わりねえんだが、まあどうかひとつ聞いてくんなせえ。 寒ーい冬の夜のことだった。おまけに博打で大負けしちまって、懐にも木枯らしが吹きつけてきやがったんでさあ。 俺は借銭(しゃくせん)取りから這う這うの体で逃げ続け、気づけばまったく見覚えのない山奥に迷い込んじまった。 すっかり日も暮れて自分がどこにいるのかもわかりゃしねえ。 体をがたがた震わせながら、ああ俺はここで死ぬのかな、とぼんやり思ったそのとき。なんと目の前にそば屋の屋台が見えてきたじゃねえか。 しめた、お釈迦様はまだ俺を見捨てちゃいなかったんだと俺はその屋台に飛び込んだね。 「おうッ、親父、かけそばひとつこしらえてくんねえ」 「へい、毎度」 そば屋の主人がぎこちない手つきで差し出す丼を俺ぁひったくるように受け取った。 器から立ち昇る湯気の心地いいことったりゃありゃしない。ど
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