2015-07-20 第4回「サスペンスフルな批評」 小津安二郎に映画作りを学ぶーーあるいは宙に吊られた視線の行方 あなたは映画監督である。期日までに自主映画の撮影を終えなければならないが、まだ映画のクライマックスをなす恋人同士の口論のシーンを撮っておらず、しかも出演俳優二人のスケジュールが揃って合う日はあと一日しか残されていない。だが、慌てるには及ばない。映画とはそこに不在の二人をいとも容易く同居させることのできるミディアムだからである。 「切り返し」と呼ばれるありふれた映画技法がある。切り返しとは、会話シーンなどにおいて発話者たる二人の登場人物を交互に映し出してつなげる編集様式のことである。滑らかな切り返し編集は、映画観客が登場人物たちの視線のリレーに参与し、感情移入することを可能にする。これはハリウッド映画が視線を制度化するために生み出した最大の発明とも言える装置であり、サイレント期
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