この頃はロンドンを飛行機で朝立つと翌日の晩には東京の町を歩いていられる。実際に飛行機が飛んでいる時間はロンドンを朝の何時に立って東京に翌日の何時に着いたということで計算しても地球が東京の方からロンドンに向って廻転していて一時間である筈のものが刻々に縮められて行くから解らないが要するに一日を飛行機の中で過すということはその一日の意味に多少の幅を持たせさえすれば言える。(p.5) 冒頭の文章を抜いてみてもわかるように吉田健一の文章はとても読みにくい。なぜならそこに句読点が一つもないからである。試しに他にもう少し読みやすく書いているはずだろうということで、ユーモア・エッセイと題してある番長書房からの『酒・肴・酒』をパラパラとめくってみると、こちらには句読点が存在している。確かめるまでもなかったかもしれないが、やはり意図的に句読点を外している。ではなぜ句読点がないのだろうか。といって、すぐに答えの