地底深く降り立ったことがある。坑内服を身につけ、頭にはカンテラを帯びて。足の幅ほどの鉄梯子をはてしなく降り、ようやく水平な地面に着くと、今度は狭くて暗い湿った坑道を這うようにして進む。何キロにもおよぶ地下の迷路――単独行ならぬ者の目に、「地底の女王」や「幽霊じみた老鉱夫」(ホフマン『ファールンの鉱山』)は出没しなかったが、「人が住む地表からの遥かなへだたり」(ノヴァーリス『青い花』第五章)だけは、慄然と感じさせられた。 これは、ドイツ東部の鉱山町フライベルクで催された鉱山文学のコロキウムの折のことだった。中世から銀の産出で名高かったフライベルクに、一七六五年、世界最初の工科大学と言われる鉱山学校が創立された。やがてここで地質学・鉱物学の雄、A・G・ヴェルナーが教鞭をとると、その膝下にはノヴァーリス、A・フォン・フンボルト、H・シュテフェンスらが集まり、ゲーテもまた知識と人格に優れたヴェルナ