「まるで、海の向こうの国から届くラジオの電波みたいに、不安定なまま、振動していた。それがおれの命だった。」 円盤に乗る派の新作公演『仮想的な失調』は、二つの古典作品を下敷きにした物語です。ひとつは、自分の名前すら忘れてしまう坊主を主人公とした狂言「名取川」。もうひとつは、源義経の西国落ちを題材にとり、涙の別れをする静御前と、かつて義経に滅ぼされた平家の亡霊を一人二役で演じる能「船弁慶」。常に複数のSNSを使い分け、様々なアイデンティティを駆使する現代の生活に向けて、これらの物語の新たな語り直しを試みます。そこから幽霊のように立ち上がってくるのは、私たちが根本的に抱えている根拠のない不安や、どこか既視感のある不気味さ。その先に、顔の見えないまま欲望が作用し合い、そのもつれが原因不明の"失調"を引き起こす現代社会のシステムを見つめ直すこともできるかもしれません。演出には、2020年の『おはよう