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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (5)

  • 見えないなあ、聞こえないなあ - 傘をひらいて、空を

    なんなの今日、「中間管理職のかなしみをつぶやく会」なの、もっと明るい話題を出そうよ、そうだ子どもとか、向井のとこ、今かわいい盛りじゃないの。かわいいとも、ものすごくかわいいとも、でもイヤイヤ期ってやつでもある、もうたいへん、正直仕事よりたいへん、そんなわけで子の話題でもやはり愚痴になる、すまない、そうだ独身組こそ恋愛の話でもしろ、なんかこう華やかなやつを。ねえよ、そんなもん。そもそも自分が独身のときに華やかな恋愛をしたか思い出してみたらいいよ。 遠い故郷に帰って就職した友人が出張で来ているというので学生時代の同級生と集まったら、話題がなんだかえらく地味で、それで誰かが抗議の声を上げたのだった。しかしそれも人生が順調な証左というものじゃあないかしら、と私は言う。私たちになんらかのささやかな役割が割りふられているのはそんなに悪いことじゃないでしょう、みんなこの年齢まで生きていて、それぞれの場所

    見えないなあ、聞こえないなあ - 傘をひらいて、空を
  • 自分を探せない - 傘をひらいて、空を

    はあ?もう一回説明してくんない?は?それ気で言ってんの?違う?違うって何が? 部下を問い詰めるときの渡辺さんの物言いにはある種の人間に共通する特徴があった。まず蔑みの感情をこめたメッセージを発する。「はあ?」というのがその代表だ。私の席からは見えないけれども、表情もきっとそれに類するものになっている。それから相手に何かを言わせる。その後、それに含まれる誤りを相手自身に指摘させる。さらにその理由を尋ねる。再度「はあ?」が繰りかえされる。「私がバカだからです」とでも言わせたいのかと思う。 それは少なくとも問題の改善のための会話のようには聞こえない。作業中に耳に入るからひどく気になって、でも私は渡辺さんにそれを言えない。渡辺さんは私の会社の人ではない。三ヶ月前にチームを率いて来て、業務用のシステムを構築している。渡辺さん、と誰かが言う。 渡辺さんこれべてください。娘が台湾に行ってねえ、学校で

    自分を探せない - 傘をひらいて、空を
  • 周回遅れの証拠 - 傘をひらいて、空を

    現代の厄年なんじゃないと誰かが言った。その場に集まった人々の外見は無軌道に異なっていた。ふだんは接点のない者同士で、ただみんなが好きなので、の話をしようとして来たのだった。それぞれが初対面であったり、そうでなかったりした。 そうして誰かが言ったのだ。二十八って現代の厄年なんじゃないの。カトウくんそう思って乗り越えなよ、俺も二十八のとき仕事で大失敗して死んでやろうかと思ったもんね死ななかったけど、それでマキノさんは、ほら前に言ってた、一年間で三回交通事故に遭ったってやつ、あれ二十八くらいだよね、ほかの人も、なんか、ない。 どうやら二十八歳のカトウくんが今現在ひどく辛い目に遭っているために、二十八歳厄年説を裏づける話が募集されているらしかった。二十八からひとまわりが過ぎたというシライシさんがそのころの大失恋の話を披露してみんながそれに頷き、シライシさんは次の人を指名する。ケイタもあるでしょ

    周回遅れの証拠 - 傘をひらいて、空を
    miya__yumi
    miya__yumi 2011/10/06
    周回遅れのランナーはそのときだけを見たら周りと同じだ。僕は手遅れだ。
  • 僕は忙しくない - 傘をひらいて、空を

    久しぶりに彼が参加するというので楽しみにしていた。その会合は仕事がらみで成立した集まりではあるけれど、参加者の年齢が近くて直接的な利害関係が薄いので、行って話すとなんとなく元気になる。 彼はずいぶんと多忙な職場にいて、子どもが生まれて一年くらいで、それだから、まだ来られないかと思っていた。彼は頭の回転が速く私の毛嫌いするたぐいの偏見を持たず言葉遣いが快く、時おり抑制された毒気を含み、話していてたのしい。 今日はカナツさんが来るって聞いたから来ましたと言うと彼は衒いなくほほえみ、どうもありがとうとこたえた。もてるねえと誰かが言い彼は苦笑してマキノさんは僕と話すのが好きなだけですよと説明する。色恋沙汰じゃなくってももてるって言う用法が広がればいいのになと私は思う。 ひとしきり互いの近況を話して、カナツさん忙しいですねえと私は言った。彼は視線を落としてから、持ち時間はあまり多くないですね、とこた

    僕は忙しくない - 傘をひらいて、空を
  • ヒーローをみつけた日 - 傘をひらいて、空を

    途中まで友だちが車で送ってくれて、あとは歩いてきた、と彼は言った。彼女がどうやって来たのと訊いたからだけれど、彼らのどちらもそんなことに興味はなかった。でも彼らは口を利く必要があったし、それによって感情をやりとりする必要があった。彼女は十八で、地震が来るまで受験のことしか考えていなかった。それからいくらも経っていなくて、彼女はまだ興味というのがどういうものか、うまく思い出すことができなかった。 感謝しなくてはいけないと彼女は思う。この従兄は京都に進学していて地震に遭わずに済んだのにわざわざやって来て、自分の両親だけでなく近所の親戚の無事(あるいは無事でなさ)も確かめて助けてくれて、今から帰ってしまうのだから、と思う。 彼は彼女に封筒を手渡す。お金、と彼は言う。少しだけど。なにしろ現金はあったほうがいい。彼女がうまく感謝できずにいると、気にしなくていいと彼は言った。僕が予備校で適当に荒稼ぎし

    ヒーローをみつけた日 - 傘をひらいて、空を
    miya__yumi
    miya__yumi 2011/01/21
    他人のなかに自分の幽霊を見る力がだいじなんだって思うの、私は立派な人間じゃないから、立派さで人を救うことはできない、でも私はどこかで泣いている私の幽霊を見捨てる人間にはならないって決めた。私は誰かのヒ
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