イギリス映画が世界の注目を集め、日本でもコンスタントに新作が公開されている。そうした作品を観ながら、筆者がいつも思うのは、サッチャリズムが社会を大きく変えたことが、映画に興味深い主題を提供しているということだ。 サッチャリズムというと、日本では規制緩和や行政改革などをめぐる議論のなかでその手本として参照されることが多く、関心が限られている印象を受けるのだが、イギリス映画からは実に多様な視点を通してサッチャリズムが見えてくるのだ。 たとえば、この数年のイギリス映画ブームの火付け役となった『トレインスポッティング』(96年)。スコットランドのエディンバラを舞台に、ドラッグに溺れる労働者階級の若者たちの悲惨な青春を、 クールでスタイリッシュに描いたこの映画の冒頭には、主人公レントンのこんなモノローグが流れる。 「人生を選べ、キャリアを選べ、家族を、テレビを、洗濯機を、車を、CDプレイヤーを、電動