あらたに英訳が刊行された東浩紀の『観光客の哲学』は、私たちの時代が直面する政治的な袋小路とでも言うべきものに応答しようとする、きわめて重要な哲学的実践だ。本書はとりわけ、パンデミックいらい起きている地政学的な対立の激化について検討している。もっとも、パンデミック自体がその原因なのではない。パンデミックはむしろ、ほかでもない国民国家ネーションステートの概念のなかにすでにきざしが見えていた対立を加速させる引き金となったのだ。ここ数年にわたり、ナショナリズムの高まりと並行して、各国が国境を厳格に管理しはじめている。それによって、世界市民主義〔Weltbürgertum〕はかなわぬ夢となってしまった。ましてや、個々の主権国家の利害を超えた枠組みでしか解決できないグローバルな生態系の危機への対応については、言うまでもない。 こうしたことを念頭におけば、本書における東の努力をだれもが歓迎するはずだ。そ
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