「音楽一本で成功する」ことを目指し、アルバイトや仕事をしながら音楽を制作する。「売れる」ようになったら仕事を辞める。音楽に限らず、日本の創作活動に携わるものの多くが描く王道の青写真だ。 同時に、「30歳までに芽が出なかったらやめる」という台詞が自分や周囲を納得させるための決まり文句にもなっている。また誰もが、どこかのタイミングで自身の人生を振り返ったとき、「食っていけない」ために音楽を作ることを“諦め”、新たなスタートを切る。 「食っていけない」ことは、アーティストとして世間からは認められにくい。表現の価値や評価は実体がなく、「稼いでいる」という明確な基準は大きな力を持つ。 それゆえに、音楽を“諦める”、”卒業する”という、よくよく考えると不思議な折り合いの付け方が当たり前になってしまう。 しかし、「売れる」アーティストはごく一部であり、表現とその価値にはさまざまなレイヤーとグラデーション