1日目 おれはなんの意図もなしに城山三郎の小説を読んだりはしない。『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件』の話である。日本近代の公害問題。これを現地で見てこそ現代、そして未来につづく云々。決しておれの行きたかった浄土ヶ浜が遠すぎると女に却下されたせいではない。こんなところにも闇を感じずにはおられない。 東海道線で東京を目指す。うそである。湘南新宿ラインでいっきに高崎まで出て、高崎から両毛線で桐生へ。 わたらせ渓谷鐵道。本当である。ただし、トロッコ列車ではないし、今は紅葉の見頃でもない。構うものだろうか。しかし、おれは存外こういった電車に乗るのが好きだ。わざわざ乗りに行く感じだ。大井川鐵道、銚子電鉄、芝山鉄道……。 わたらせ渓谷鐵道(トロッコ列車ではない)は、苦しそうな音を立てて山中を行く。余裕で座れた車内、小学校低学年くらいの子供らの集団がキャッキャさわぐ。悪くない。大井川鐵道のSLのその先を思い