「見てごらん。綺麗だから」 辻ちゃんばりの黒いリボンを後頭部につけるなど未だに感性が若いままの叔母さんにすすめられて、そこだけ観音びらきが終始ひらきっぱなしになっていた棺の窓から、もうすっかり目をとじたままの祖母の顔を、通夜が終わってようやく初めてまじまじと見つめてみた。 ゾッとするほど綺麗な顔をしていた。 生前、化粧っ気があったかどうかすら定かではなく、とにかくまじまじと顔を見つめるなんて案外めったになかったことなので、「こんな顔だったかな?」と自分の記憶をうたがった。 一月の誕生日を迎えてすぐに祖母は逝った。 92歳だった。眠るようにして息をひきとったそうだ。 年齢も年齢だったから、絶望感だとか、無念だとか、そんなものをまとった死ではなかった。人の生き死にに価値があるも価値がないも誰にも言えたものではないけど、人よりすこし長く生きたぶん、人と過ごした時間も長かった、ということにはなると