ある男が8月に誕生日を迎えた。 それはつい3週間ほど前のことで、年齢は60歳になった。 8月も終わりの31日、その男はめでたく定年退職を迎えた。 定年を迎えた男は今、どんな気持ちなのだろうか。 男は単身赴任で、家族とは3つほど離れた県に住んでいた。 リーマン・ショックのあおりを受けての転勤だった。 一人暮らしに心踊らせる年齢でもないので、週末になるたびいそいそと家族のもとに帰っていた。 男は真面目・律儀・寡黙の三要素で出来たような人間だ。 男に対しての家族の評価はずっとそうだったが、、つい最近の男はちょっと違って見えるそうだ。 歳のせいか、弱い所が目立つようになってきたせいなのかもしれない。 男が弱音を吐いたのを、家族はつい最近になって初めて聞いたという。 毎週末に家に帰ってくるのを「命からがら逃げてきた」と表現していることからも見て取れる。 全身を覆うご自慢の体毛に若い頃の面影はなく、眉
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